大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 平成3年(わ)104号 判決

本店の所在地

熊本県人吉市大工町三四番地

代表者の住居

同所

代表者の氏名

山室十郎

有限会社

山協商事

本店の所在地

同所

代表者の住居

同所

代表者の氏名

山室十郎

有限会社

宝山実業

本籍

同所

住居

同所

会社役員

山室十郎

昭和三年九月七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官木野秀器出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社山協商事を罰金七〇〇万円に、

被告人有限会社宝山実業を罰金二五〇〇万円に、

被告人山室十郎を懲役一年六か月にそれぞれ処する。

被告人山室十郎に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となる事実)

第一  被告人有限会社宝山実業は、熊本県人吉市大工町三四番地に本店を置き、パチンコ遊技場を営む資本金六〇〇万円の有限会社であり、被告人山室十郎は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山室十郎は被告人宝山実業の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの不正な方法により、所得の一部を秘匿したうえ

一  昭和六〇年五月一日から同六一年四月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一億一、三〇五万〇、〇二七円であり、これに対する法人税額が四、七三七万五、六〇〇円であるのに、昭和六一年六月三〇日、熊本県人吉市寺町二〇番地一所在の人吉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四、五六九万五、二二七円であり、これに対する法人税額が一、七八七万八、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税二、九四九万七、四〇〇円を免れ

二  同六一年五月一日から同六二年四月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一億二、〇八七万三、三七四円であり、これに対する法人税額が四、九五〇万六、六〇〇円であるのに、同六二年六月三〇日、前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、六〇〇万八、八六一円であり、これに対する法人税額が二、二二七万二、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税二、七二三万四、二〇〇円を免れ

三  同六二年五月一日から同六三年四月三〇日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が一億〇、六一七万六、九三三円であり、これに対する法人税額が四、二四六万二、〇〇〇円であるのに、同六三年六月三〇日、前記税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七、一四二万五、八二八円であり、これに対する法人税額が二、七八八万四、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、法人税一、四五七万七、八〇〇円を免れ

第二  被告人有限会社山協商事は、熊本県人吉市大工町三四番地に本店を置き、パチンコ遊技場を営む資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人山室十郎は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人山室十郎は被告人山協商事の業務に関し、法人税を免れようと企て、同会社の設立時である昭和五十三年から当該事業年度の間の売上除外などで蓄積した簿外の定期預金等の受取利息を除外するなどの不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ

一  昭和六〇年一一月一日から同六一年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が八、六六〇万二、九六二円であり、これに対する法人税額が三、五五五万一、五〇〇円であるのに、被告人山室において当該事業年度に計上すべき所得金額二、〇二二万七、二八七円を秘匿したうえ、昭和六一年一二月二六日、熊本県人吉市寺町二〇番地一所在の人吉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四、〇六八万一、九二五円であり、これに対する法人税額が一、五七〇万九、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、前記秘匿部分に対応する法人税八七三万二、六〇〇円を免れ

二  同六一年一一月一日から同六二年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が七、三九四万六、二〇九円であり、これに対する法人税額が二、七二二万七、一〇〇円であるのに、被告人山室において当該事業年度に計上すべき所得金額一、七六〇万六、四四七円を秘匿したうえ、同六二年一二月二六日、前記人吉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五、二六三万六、八六二円であり、これに対する法人税額が一、八三二万九、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、前記秘匿部分に対応する法人税七三四万九、三〇〇円を免れ

三  同六二年一一月一日から同六三年一〇月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が九、七七四万五、五六三円であり、これに対する法人税額が三、八一五万八、三〇〇円であるのに、同六三年一二月二八日、前記人吉税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八、七三二万五、二三〇円であり、これに対する法人税額三、三七八万九、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税四三六万八、六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠)

判示事実全部について

一  被告人山室の公判供述

一  被告人山室の検察官に対する供述調書二通

一  大澤功二(二通)、坂元勝義、橋口栄之、西村薫、大村谷昌彦(二通)、宮薗和洋、上村輝雄(四通)、上村佐代子、井出俊行、遠矢正啓、竹内順二、園田輝男、市之瀬敏一、井上清子、鳥越和信、新屋睦夫(二通)、板垣宗文(三通)、奥園博利(二通)、本多親文、鍋田耕一郎、山下栄一、山本浩己、竹原信一、泊幸雄、海悦清英の大蔵事務官に対する各質問てん末書一 写真撮影てん末書七通

一  電話聴取書

判示第一の事実について

一  脱税額計算書(検察官請求番号甲37ないし39)

一  脱税額計算書説明資料(甲40、41)

判示第二の事実について

一  脱税額計算書(甲42ないし44)

一  脱税額計算書説明資料(甲45、46)

(法令の適用)

被告人山室の各行為、被告人宝山実業の第一の各行為、被告人山協商事の第二の各行為は、いずれも法人税法一五九条一項(被告人宝山実業、同山協商事については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人宝山実業、同山協商事については情状に鑑み同法一五九条二項に適用し、被告人山室については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人宝山実業、同山協商事については同法四八条二項により合算した金額の範囲内において、被告人宝山実業を罰金二五〇〇万円、同山協商事を罰金七〇〇万円に、被告人山室については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い第一の一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六か月にそれぞれ処し、情状により被告人山室に対し同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

(量刑の事情)

本件は、パチンコ店を手広く営む被告人山室が、競合店との経営競争に打ち勝つための資金作り等の目的で、売上除外金を仮名預金する等の手口で脱税していた事案であるところ、その動機の自己中心性、仮名預金口数が四〇〇口を超えるという態様の大胆さ等に照らし、脱税の意図が強固に認められ、規範意識の欠如が窺われる。その脱税に係る額も、三年間で、宝山実業は七〇〇〇万円、山協商事は二〇〇〇万円をいずれも超え、総額では九〇〇〇万円を超える多額に及んでいる。こうしてみると被告人山室らの本件行為は極めて悪質であり、その刑事責任は重いといわざるを得ない。

しかし、他方、被告人らはいずれも修正申告による正当な法人税、重加算税等を納付していること、被告人山室にはこれまで公判請求の前科はなく、この法廷で今後は二度と脱税はしないと誓い本件を反省する様子で見せていることなど、被告人らのために有利な事情も認められる。

当裁判所は、これらの事情を考慮し、主文のとおり刑を定めた。

(裁判官 秋吉淳一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例